（歴史）

弘安５年（１２８２年）９月、病気治療のため身延山を下りた日蓮は、湯治に行く途中で池上衛門大夫宗仲の邸に立ち寄ったが、ここで病気が重くなり、同年１０月１３日に死去した。
　日蓮の死後、宗仲が自分の邸を寄進し、日蓮の直弟子の日朗を中心として寺院の建立が図られた。
　日蓮の七回忌の頃になると伽藍の整備も進み、ようやく本門寺ができあがったと考えられている。

重要文化財、池上本門寺宝塔の建立は、宗祖日蓮五百五十遠忌を期して行われ、江戸芝口講中の本願により、 文政11年（1828）に上棟、同１３年（天保元年）に開堂供養を修している。
　それは石造の方形基壇に築いた円形蓮華座の上に建つ木造宝塔形式の建物で、内外ともに漆や彩色によって 華やかな装飾が施されている。　塔内中央には金箔や彩色で装飾された木造宝塔を安置し、日蓮が所持していた 水晶念珠を奉安している。

（仏塔訪問日記）

この日は久しぶりに新幹線に乗って、東京方面の史跡巡りだった。
　新幹線のぞみで『品川駅』到着後、まずは、京浜東北線に乗り、『蒲田駅』で、東急池上線に乗り換え、 『池上駅』に到着。
　そこから徒歩で、この池上本門寺までやってきた。
　実はこの池上本門寺。　私にとっては初めての訪問ではなかった。
　3年ぐらい前、私が仏塔巡りを始めた初期の頃に、五重塔を見学するために来たことがあったのである。
　しかしその頃は、広い境内にもう一つの仏塔であるこの宝塔があるということを知らず、見事にスルーして 帰ってきてしまった。
　しかも、スルーして帰った後に、その宝塔が、重要文化財に指定されたというではないか・・・。
　そのこともあり、今回東京へ来るにあたって、いの一番に来るのを決めたのが、この池上本門寺だった。

広い境内に到着後、私は真っ先に、宝塔がある境内東の外れへ向かう。
　そして墓地の方へ階段を降り、いよいよ、待ちに待った重文宝塔との対面となるわけだが、それを見た瞬間、私は驚愕することになる。
　なんと、そのサイドには巨大な工事用足場が組まれていたのである。
　私はその光景を見て、少し呆然としてしまった。
　宝塔を写真に撮ると、どこから撮ってもその巨大な足場が写ってしまうのである・・・。
　まあ、その足場があっても宝塔は完全な状態で見れるのだが、人間というものは、 例えば美しい花の横に、大きなゴミが落ちてると、どうしてもそのゴミの方に目が行ってしまうものである。
　そう言った意味で、ある種の残尿感は否めない宝塔参拝になってしまった。

それはともかく、この宝塔。　実は希少価値で言えば、日本の全仏塔中、トップクラスと言えるものである。
　この手の宝塔タイプの仏塔で、江戸時代以前から現存するものは他に、長蔵寺一重宝塔や、 性海寺宝塔など、 数える程しか無く、しかもこの池上本門寺宝塔のように、屋外で建つ巨大なものの現存例は他に類を見ないのである。
　池上本門寺宝塔は、薬師寺三重塔東塔や、安楽寺八角三重塔、談山神社十三重塔などと同じく、 現在では他に類を見ない唯一無二の形状をした仏塔の現存例であり、その希少価値は極めて高いと言えるだろう。

私はその貴重な宝塔を十分見学した後、少し残尿感は残るものの、 次の訪問先である来迎院多宝塔（重文）に期待を繋ぎ、茨城県龍ケ崎市へ向かった。